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2006年8月12日 (土)

一生の仕事量

先日、シュガイザー先生と本屋さんは昆健一郎先生のお宅を訪問したそうです。多賀大社フォーラムの打ち合わせと、六然社より発行準備中の本の打ち合わせを兼ねてのことです。

今回の訪問後の感想をお聞きした所、本屋さんはいたく感激されていました。今まで地道に手に入れていた昆先生の本だけ見ても、「すごい仕事を70年代にやっていた先生」と説明されていましたが、実はもっともっと仕事をしていた!!ということが分かったそうです。

本屋さん曰く、「思わず長野先生に言っちゃった。もっと仕事しなきゃダメですよって」。あれだけ論文を出しつつ、患者さんを20人以上殆ど毎日一人で診て、森ノ宮での1日の授業は8コマとか・・・、そんでもってずっと休みなし、そういう常人離れした長野先生に向かって「もっと仕事しないとね」と言える本屋さんもすごいですけど、この言葉から想像するに、これはとてつもない気がするのであります!!長野先生だってひれ伏した(話の筋から勝手にワタシが妄想するに・・・)ぐらいの驚異的蔵書量。平屋一軒分が書庫だった、という話ですよ。そして、古典の翻訳をしているだけじゃなく、自分でまとめて表にしている辺りのきっちりした仕事とときたら、今まで見たことがない部類の、有り得ない仕事人だそうです。

特に『古今方彙』を見せながら、ちょっと興奮して「ただ訳したり解説したりしてるだけじゃなくって、ちゃんと表をつくって、整理してるんだ、これは中身を咀嚼する程相当理解してないと出来ない仕事! って絶賛してまぴた。 『古今方彙』って知らなかったワタシがきいてみると、本屋さんは、「乱暴な説明だけど…」、と前置きした上で、『万病回春』を日本的にアレンジした江戸時代の代表的な処方集で甲賀通元(健斎)によるもの、後漢から唐、宋、金元時代や清朝初期までの多くの医書から多くの処方を集大成したもので、基本的には温補派の考えなんだけど、日本人や風土や習慣に合わせ、寒涼・滋陰・瀉下の薬や、オリジナル処方へ加減方法に著者独自の工夫が見られる、との事です。仁和寺秘蔵の『太素経』を模写したことで有名な尾張の浅井家では、『方彙口訣』という、『古今方彙』の解説口訣集を出しているけど、昆先生の和訳解説は鍼灸の視点からの解説も入っていてそれを凌ぐ仕事だそうです。(ちなみに本屋さんは浅井家のファン。だから六然社には『金匱口訣』があるのです)。

そういえば、今週兵頭明先生と飲んだ時にも本屋さんは昆先生の本を数冊持参していました。さすが、兵頭先生です。昆先生のペンネーム〈昆豊仲〉をご存知で、「衛生学園の図書にもあるねぇ、茶色の・・・」と即答が返ってきました。昆先生の仕事がもっと一般化していたらと思うと、兵頭先生ももっと進んだ所から仕事ができたのにっていう話題が続きました。鍼灸業界は本当に無駄骨ばかりで、先人の仕事を引き継がないで進歩が全然ないそうです。いつもゼロからのスタートで、だれもが発見者みたいな態度っていうのも気に食わないと本屋さんは言っております。ただ単に勉強不足、リサーチ不足なだけなのにって一緒に嘆いていました。昆先生について兵頭先生も「70年代に鍼灸処方集を作っていたなんて、世界初だと思うよ」とかおっしゃってましたし(本屋さんは以前、石川家明先生が中心になってつくった『臨床鍼灸処方の実際』という本を作っています。「日本初の処方集」だと思って結構誇りに思ってたけどこんなに前にやってたんですねえって嬉しそうにいってまぴた)。その他「昭和鍼灸っていうのは、関東なんかどうでもよくって、関西エリアに抜きん出た人物が相当集まっていたのにねぇ。結局、柳谷素霊はある程度きっちりしたことをやりたかった節が見えるけど、竹山さんが悪いんだね。関西の情況を全然リサーチせずにメディア戦略を推し進めたからねぇ」なんていう、「へぇ~」話がどんどん出てまいりました。余談ですが、小野文恵先生が接触鍼をする前に使っていた鍼も中国鍼同様に太かったとかも聞いちゃいました。鍼を変えていく毎に患者さんのタイプが変わっていたそうですよ。

現在ワタシは昆先生の『金鍼梅花詩鈔』のテキストチェックをやらせて貰っています。例えば、今開いているページの註解には『霊樞・五禁篇、順逆篇』『素問・長刺節篇』『標幽賦』『保命集』・・・・といった文献からの引用として、「コレコレにはこう書いてあって・・・」と説明が続くのです。今の感覚では、パソコンに向かって検索をかけちゃえばキーワードで引っ張れますが、昆先生がこの仕事をされていた時代って言うのは、こんな文明の利器は存在しないのですからねぇ。頭一つ、本を引き引きやってこられたんだろうなぁと想像するに、「人間が一生にできる仕事量のマックス?」と思わずにはいられません。一層、多賀大社の講演が楽しみになりましたです。「イメージとしては老中医そのままの風貌」だそうです……。

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