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2006年10月30日 (月)

技の競演

10月の第3日曜日の勉強会が終わった後、六然社ではひっそりと、しかし濃厚な<技の競演>が繰り広げられいたのである(笑)。本屋さんのお相手は、均整治療を操る○っちゃんだ。

本屋さんの元に送り込まれた患者さんの一人に、側弯症の女の子がいる。今時の若者っぽくない、ウブウブとして可愛らしい彼女がココに来てから彼是2ヶ月が経とうとしている。手術を勧められた彼女は、手術をする前にやれることはないか・・・という姿勢でここへ辿り着いた。側弯症の手術内容っていうのはちょっと調べてみた限りでは、側弯によって膨らんだ側の肋骨を切って短くし、つなげるという「そんな安直な・・・」というものだそうだ。脇に大きな傷跡が残るし、なんせ削る肋骨は1本ではない。骨折経験者は季節の変わり目などに嫌ぁな感覚を感じ易いというが、身体への負担も相当なものなんじゃないかと……。まだ20歳前の身体にそこまでする必要があるのだろうかと疑問が浮かぶ。例えば、肋骨が変異している事で内臓を圧迫しているとかで、機能が落ちているのを止めるにはコレしかないのだ、という已むに已まれぬ事情があってこそやるべき手術のような気がすると○っちゃんは言っていた。

今までの治療回数は5回。今回で6回目。本屋さんは巨鍼も使ったけど殆ど手技で対応している。小柄じゃない彼女であるが、本屋さんの治療を受けてからなんと2~3cm身長が伸びたそうである。「えぇ~ワタシも伸びたい!」と、ごり押ししたが「もう年齢的に調整はできても成長はムリ」と断られた(笑)。身長を伸ばす方法もあるそうだ。彼女の場合それが目的ではないが、骨格をいじる事の副産物であろう。

ナンデ、<技の競演>が繰り広げられたかというと。骨格矯正がお得意の○っちゃんに、彼女の側弯症の治療について意見を聞いて、参考にしたかったからだそうである。 お二人の出会いは昨年で、先生と学生という関係であった。が、実は同じ骨格矯正(って言っちゃっていいのかなあ? 筋肉も見てるし本屋さんはよく「筋膜が云々」って言うし、関節の調整もするしなあ…)の大家に習っていた経緯があったそうだ。一緒の時期ではないし、本屋さんの方は例の如くモグリで習っていたらしい。偶然の出会いではあったが、神が用意した必然であった、と陳腐なフレーズを使いたくなる程、お二人は意気投合されている。一月に一回会うたびに、「アレ知ってる?」「コレですか?」「そうそう、ソレ。ふ~んなるほどね」「じつはこうやるともっと使えるでしょ」と、なにやらお二人で確認作業ばかりしている風に見える(笑)。

事前に患者さんには、「京都の大家が参りますので・・・」と了解を取っておき、お越し頂いた。本屋さんが○っちゃんを紹介すると、○っちゃんは治療家モードにスイッチ・オン!まずは立ったまま、触診をし(ココでもう治療スタートなのである)、正面へ回って距離を取って全体像をチェック。<身体フェチ>と自ら名乗るだけあって、どうして側弯になったのかという背景を探っているようだ。身体を様々な角度から観察して得た情報を駆使して、脳みその回転を上げまくってはじき出している、という感じがした。

ベットに寝てもらってからも一様に触診は続く。自分のペースでしっかり身体を観つつ、体勢を変えてもらうたびに、細やかな<お声掛け運動>が行われる。「ごめんね、上になってもらったり下を向いてもらったりして。これで一通り見させてもらったから」と、常に自分が何をしているのかを相手にも明確にお伝えしている。こういうのが、<繁栄の秘訣>なのだと思われる。○っちゃんの治療院は確かに<繁栄>してる。現在、鍼灸学校に通っているために治療時間が削られてしまっている関係上だと言っているが、予約待ち続出中で患者に随分迷惑をかけているそうだ。時間が幾ら有っても、予約待ちは解消できないとワタシは思うのだが。

さて、この時点で治療方針が決まったらしく、本屋さんを見ながら「やっちゃってもいいですか?」と、根っからの治療家魂が顔を出す。○っちゃんの技を見ながら「なるほどね」とか「ああ、やっぱりそういう領域も使うんですか」等と、時折本屋さんが頷く。「○田さん、大胆だなぁ。僕はそこまで出来ないよ」「僕だって初診ならやりませんが、本屋さんがもう随分手を入れて下さっているので、思い切ってやってしまいました」ナドナド、一見して何にも大胆じゃない様にワタシには見える技の議論が始まる。お二人にしか分からない世界である(後で解説を聞いてみると今のワタシには到底出来ない凄い事をやっていた事が分る)。普通、治療家っていうものは自分の技を人前では出さない。療術のデパートと呼ばれる本屋さんは「どうせ見せても持っていけないから、見せちゃうけど(笑)」と拘らないが、さっさと盗める人間がその場にいるのが分かっていたら出さないのが心情だ。しかし、「全部出した・・・」といった爽快感が漂う雰囲気で治療が終わった。「○田さんが出し惜しみせず見せてくれたので、お土産に・・・」と、本屋さんもある技をご披露していた。これには○っちゃんも感激し、「うぉ~」と唸っていた。

治療と共に、彼女には宿題が毎回出されている。例の正坐で出来る、畳一畳運動法を毎日家で取り組むように指示されている。側弯症であっても、彼女の可動域は相当なもので、<身体作りの会>に出席されてい方々と比べ物にならないほど柔軟性&修得率がすこぶる高い。この可動域が高い事が、もしかしたら原因かもしれないとも見れるらしい。「若い身体は機能を失っていないからいいなぁ」と、本屋さんも言っている。「30過ぎると、呼び覚ます所から始めなきゃいけないからねぇ」。そうなのだ、リハビリ(涙)。「患者を鍛える!」と、これ以外にも側弯症の運動法と、某国の特殊部隊が使う身体向上訓練法までもが伝授されていく(笑)。しかし、彼女の偉い所はちゃんと取り組んで来ている点だ。いつも、前回よりも上手くなっている。その証拠に初めて来たのは8月なのに確実にスタイルがよくなっている。「寝る前に一日何回とやってます」と頑張ってくれている。○っちゃんも、「治るにはそれが大事なんだ」と最後に伝えていた。

今回出された宿題は、自分で胸膈を広げる運動だった。一本ずつ肋骨を確認させながらの作業なので、女であるワタシの出番である!  この先生方は絶対に女性の胸部は触らない。そこまで遠慮しなくても・・・と、今思えばある種のセクハラ治療院に通った経験を持つワタシとしては思ってしまうのだが。リスク管理は徹底されている(笑)。というより、身体の反応がよく分かるお二人なので、そういった部分を触ると無意識に出てしまう患者の緊張が気になってしょうがないのだろう。それ自体が治療効果を悪くするのかもしれないし。丁寧に教えながら、「副作用として、バストが大きくなっちゃうかも知れません」と、男二人が真剣に言っている。「えっ。納豆食べる以外に、そんな事できるんですか??」と聞き捨てならない言葉に思わず反応してしまった。「簡単だよ。バストを大きくするのだって、顔を小さくするのだって、ウエストを細くするのだって」と、何を言っているんだという顔が二つこちらを向く。そんなの出来たら、速攻治療院を開いて、世の女性を欺くけどなぁ(笑)。これは立派な<治療院繁栄の秘訣>だもんねぇ。でも、こういったコズルイ<秘訣>で荒稼ぎをする事も無く、自分の技を提供するってスタンスの方がかっこいいなぁと思うのであります。

治療部屋を出られたお二人は、披露された技について検討会(笑)を始められた。驚く事に、示し合わせたわけでもないのに、結局お二人の治療の流れはかなりの部分が一致していた。これにはお互い笑っていたけど、お二方の治療を間近で見られたワタシは不思議な気持ち。部屋に残っていたワタシに、彼女は先生には聞きづらかったらしい質問を投げかけた。「あの・・・。肋骨は全部で6本なんですか?」。悪いと思いつつ、あまりにも上手いオチに爆笑してしまった。こっちが常識だと思っている身体の構造を理解していると思ってしまっていた。高校生だし、そこらへんの知識はまだ残っているだろうと。「ワタシが説明するより、外に出たオジサマ二人のほうが遥かに説明が上手いのでとりあえず着替えて出ようか」と、一足お先に外に出てこの話をすると、お二人とも相当ウケていた。ココには残念ながら模型が無い。○っちゃんの治療院には、ニックネーム付きの脊椎&骨盤模型が常時スタンバっているが。○っちゃんは元々営業畑の人間で、何事についても<説明>がとっても上手だ。模型を駆使して患者を洗脳する術(笑)が、技術と並んで<治療院繁栄の秘訣>の大きな柱だと思われる。実際に頭で理解できている患者の方が治りが早いとも言っていた。で、模型もないし、本は山ほど有るけど、古本ばっかりで詳細な解剖図はない(笑)。「では私の身体を・・・」と、実モデルとして○っちゃんの裸体をお借りして、肋骨が6本ではないという話以外にも、彼女の体がどういう方向を持っているのかというのをよ~く関節が動く標本モデルが実際に提示してくれたので、今回の治療では相当理解が深まったに違いない。

彼女の側弯がどれくらい軌道修正するのかは、まだ未知数だ。本屋さんは半年をメドに治療計画をしているらしい。身体には、その人の意思が現れると最近思う。無意識の事が多いんだろうけど。何故、側弯する身体である必要があるのか、という考えが彼女の中に芽生えた時に治療が別の段階に入る気がする・・・。

さて、この話はココで終わりではない。○っちゃんが新幹線に乗って帰った頃、事務所ではワタシの反省会が繰り広げられていた(笑)。「○田さんがやった事を最初から最後まで言ってみて」という突然のお達しに、覚えている事を喋ってみた「まず患者さんを寝かせて背中を触り……」と始めたワタシの話を暫く聞いていたが・・・。突然遮り、「1時間も経ってないのに、もうこの時点で6割しか残ってないのね。なんで頭の中のビデオテープを回さないの?? いつでも再生可能な映像を自分の頭に残さないでどうすんの。4割以上失ってるでしょ、だから、講演の時に散々撮影不可って言っているんだけど、その意味が分かってないねぇ。そういう能力を鍛えなきゃ、技なんて見てるだけで盗めるわけ無いでしょ」と、ごもっともな胸をえぐるお言葉を頂いた。そして本屋さんは○っちゃんが患者さんと会った時から、どういう挨拶をして何をしたか、まずどうやって立たせて何処を見て何処を触り何を確認し、それから横になってもらって(横になる動作を見ている視点とか)と言った感じで時間軸に沿って再生してみせた。「まあいまなら9割、明日でも多分8割は撮れてるだろうなあ」と事も無げに言う。それを聞いてみると、確かにワタシは「6割以下」でしかないと痛感!  ああ、こういう能力を磨けって言うわけね。「見取るんだ!って言ってるでしょ。ビデオは所詮二次元だからね」……本屋さんが「映像や音声を記録しちゃダメ!、一回で覚える気で見ろ」って言う理由が本気で分かった一瞬でした。 でも、ワタシの場合、頭の中でビデオテープを回すというより、ビデオカメラとデッキを用意する所から始めなきゃならない。闇雲な暗記術では開発できない、脳のリハビリもスタートさせねばならぬのだぁ・・・(笑)。

 あ、シュガイザー先生の実技を本屋さんがたまに撮っているのは、シュガイザー先生の反省材料と本作りの為なので念のため。 そうそう、実はこの事に関連してですが、先日のシュガイザー先生の実技の時に、本屋さんの弟分の方がお忍びでいらしていて、その方は鍼灸は素人なのに、見るべきものをちゃんと見ていて、それについて感想を述べていた。ご本人の承諾が得られたら、それも紹介しようと思っていまぷ。

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