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2007年7月

2007年7月23日 (月)

癒しと治し

 先日、ある先生とメールのやり取りをしていた中に「アロマも使う○○先生は、癒しではなく治しをしていますね」という一文があった。

 この韻を踏んだ言い方に「うぉぉ~これだよこれ。ワタシが目指そうと思ったものは」と感激した。今までつべこべ説明していたが、このキーワードで全て解決だ!! イタダキっ。って感じであった。

 アロマ業界から鍼灸学校へ入る動機は、どうせ人の身体を触るんだから治す領域に手を出したい、というものだった。触りながら、こっそりアレコレ治せたらいいなぁ、小人がコソコソ夜中に修理するみたいで、ちょっとしたイタズラっぽくていいなぁと思っていた(もちろん今も)。お顔のエステをやっていた時に、「今日は頭痛がする」と言われると、首や頭皮も何気なく一緒にマッサージして頭痛を楽にさせるのが快感だった(笑)。が、今思えばあの頃は「循環が良くなればいいのだ」という筋と脈管レベルでしか身体を見ることができなかった。今はもう一層違うもの、骨と膜というレベルがあることを知ってはいる(そう、知っているだけ;涙)。

 実は、これを体現する人がいる。本屋さんである。皮膚、肌肉、筋、脈管、骨を全部網羅する治療を組み込んでいる。そして、患者さんが女性の場合は、こっそり骨盤を調節してウエストを締め、首の調節がてらにこっそり小顔矯正と言えるものをしている。これは美容の観点から行っているのではなく、あくまでも治療の一環なのだが、敢えて患者さんには「ウエスト締まりますよ、小顔矯正しますね」とは言わない。こっそり治しておく。顔をいじれば感覚器官の諸問題が解決するし、骨盤を整えるのは必須と言えるほど治療のキーになる。

 顔の左右差を非常に気にしている、過去に顔面神経麻痺を起こされた女性だけには、納得させるために説明していたっけ。治療の度にいつもやっていたのだが、患者さんの意識上に「小顔」という魔法の言葉が昇ると、女性は真剣になる。この相乗効果と来たら、あら不思議(笑)。「いつもより動きの悪い目と口が開けやすい!」と反応がめちゃくちゃ上がる。「顔が引き締まった。また次回もこれをお願いします」とルンルンしてお帰りになった。

 巷には骨盤矯正・小顔矯正と大々的に宣伝し、心理作戦で成り立っている治療院(無資格系に多い気がする)が乱立しては消えていく。短期決戦の経営テクニックとしては悪くないのかも知れないが、宣伝すればするほど、無い技術を隠そうとしているようにも見えてくる。とりあえず洗脳作戦で場を繋ごうというのか、施術前後の写真は笑えるぐらい大袈裟だ。が、コンプレックスを持った女性の行動力は侮れない。飛びつく女性は意外といる。しかし、数回は続いてもずっとは来ないに違いない。人は簡単に騙せるが、騙し続けるのは難しい。

 そういえば、先日。来年の春にウェディングドレスを着る女性がウェスト周りをどうにかしたいと本屋さんに訴えていた。「10分で減りますよ」と簡単に回答する本屋さんに、その女性は藁をもすがる勢いで「お願いします!!」と頼み込んでいた。

 彼女がベットに横たわる前にウェストを測ることにした。実際に本屋さんが骨盤を調整するのはずっと見ているが、測るのは初めてだったので期待が増す。「えぇ、測られたくないっ」とお腹を隠す彼女に、「紐ですから、何センチかは分かりません」と本屋さん。あ、メジャーじゃなくていいのか。これって素敵な配慮だわ、と内心さすがだなぁと思っていたワタシ。お臍のラインと、上前腸骨一番高いラインで測って紐に印をつけておく。

 横たわった彼女の脚を動かしたりすること10分弱。さて、計測の時間。まずお臍から。

 《ひえぇ~。増えてる。明らかに3cmぐらい。まさか、本屋さんでも木から落ちるのか??》と、「増えています」と言い出せずにオドオドしてしまったワタシを見て察したのか知らないが、「お臍周りは増えるかも」と敗北宣言(?!)をする本屋さん。

 この言葉に救われて「あ、増えています」と切り出すと、彼女は「えぇ~!!」とショックを隠し切れない。減ると思っていたのに、そりゃそうだろう・・・。

 この空気を消し去るべく、慌てて上前腸骨の方を測る。こっちは4cmぐらい減っている。《やった~。空気を変えられる!!》と意気込んで、「減ってますよ」と告げると、彼女は飛び跳ねて喜んだ。しばし喜びを共有するとお互いに疑問が・・・。

 どうしてお臍周りは3cmぐらい増えたんだろう??

 「それはですね。言いにくいんですけど、余計なお肉が上に上がったってことです(笑)」と本屋さんがニヤニヤして種明かし。なるほどぉ。お肉は減らないわけね。当たり前か。でも、骨盤の上に上がったお肉は取れやすいんじゃないかなぁと思ったりもした。なので、ウエスト調整を数日置きにやって、そこそこ食べ物を減らしたり、運動をすれば案外簡単に細くなるんじゃないかと。

 本屋さんは「結果として患者さんが楽になれば良いんだよ」としか言わない。施術の方法は鍼灸でもいいし、手技でもいいし、言葉だって良いんだということである。常に非常事体制を頭に置いて考える本屋さんのお好みとしては、「何も無かったら?」という前提で手技が一番に来る。それをワタシもマネっこしているつもりだが、お寺の治療会の時、3時間半で17人を一人でこなした日は、「鍼が出来て良かった」と心底思った(笑)。臨機応変、どんな状況でも対処できる引き出しが多い事が大事なんだと、言われたことを思い出したっけ。

 痛がらせる、熱がらせることは意図的に避ける本屋さんの治療は「癒し」というより、「極楽」という感じ。終わった後の患者さんを見るとそう感じる。「極楽」と「治し」が共存する本屋さんの治療はやっぱり名人クラスだと思うのだ。それはやっぱり、《骨と膜》が見えるからなのではないかと睨んでいるが、この辺りの入り口は合宿の時に出るに違いないと、今から待ち遠しい28,29日なのであった。おしまい。

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2007年7月19日 (木)

多賀大社フォーラム事前説明会&身体作り

多賀大社フォーラム事前説明会
       &鍼灸師のための身体作り

今年で第4回となった、和方鍼灸友の会最大のイベントである多賀フォーラム。今年のキーワードは『鍼灸師は深海魚である』……毎年、その分野でトップレベルの研究者を講演者にお招きしていますが、今年のメンバーも強力なラインナップです。多賀フォーに参加した過去の反省として、事前に講演者のバックグラウンドを予習しておいた方がより得るものが大きいことが分かっています。そこで、フォーラムのより良い理解の為に、主宰者の一人でもある寄金丈嗣によって、各演者の業績についての予備知識を解説する事前説明会を設けました。(多賀フォーの詳細については「多賀大社フォーラム07プログラム」をご覧下さい)

《多賀大社フォーラム‘07 講演者簡介》
1:駒澤大学名誉教授 中村璋八先生 
「陰陽五行思想と中国伝統医学」 

 何といっても、今回の目玉は陰陽五行研究の世界的権威であられる中村璋八先生のご講演である。伝統に立脚する鍼灸師であれば、陰陽五行説を抜きにして理論も実践もありえないのだが、では、陰陽五行説がいかに形成されて、医学に吸収されていったのか、ということになると、ほとんど無知といってよい。現代医学が数学・物理学・生物学・化学・工学などに支えられているように、中国の伝統医学は中国古代の自然哲学を踏まえているのである。限られた時間ではあるが、壮大な中国哲学史の一端をご披露していただく。

2:京都大学人文科学研究所教授 武田時昌先生 
「陰陽五行のサイエンス」

 中村先生と共に『易のニューサイエンス』を翻訳された武田時昌先生は、京大人文研・中国科学史班(藪内清スクール)の直系であるが、何を隠そう、長野仁をダーク・サイドの深遠へと陥れた人物の一人である。長野仁が鍼灸大学4年の夏休み、遠い伝手を使ってようやくアポを取り、赴任先の信州大学を訪問した初対面を皮切りに、皆神山紀行があり、人文研時代があり、今の長野仁がある。深海魚生活17年目を実感した長野仁が学生会員を深海(鍼界)へ引きずり込むために、その原点の一人である張本人に声を掛けた。予定演題は、目下の研究テーマである「陰陽五行のサイエンス」。

3:慶応義塾大学講師 正木 晃先生 
「日本仏教史からみた禅宗と沢庵禅師」

 宮崎アニメの宗教学的解釈とマンダラ塗絵で一躍熱帯魚のごとく注目されている正木先生だが、その真骨頂は緻密で周到なフィールドワークと深く静かな思索にある。昨年の覚鑁上人に引き続き、今年は、沢庵禅師についてご講演頂くこととした。両者とも日本の医学思想に少なからぬ影響を及ぼした高僧である。日本仏教史にける禅宗の位置づけを説明して頂いてから、江戸期の代表的な禅僧である沢庵その人にスポット・ライトを当てて解説頂くよう依頼している。沢庵には鍼灸に関する著述も存在するので、その点については長野仁が紹介する。本当は、数年前に『沢庵禅師鍼科三部書』として出版されていたはずなのであるが…。

4:京都文教大学臨床心理センター所長 濱野清志先生
「臨床心理学からみた増永静人の経絡指圧」

 現在、京都文教大学の臨床心理センター所長としてクライアントのカウンセリングに臨み、教授として学生に教鞭を執っておられる、ユング派心理療法の立役者であり前文化庁長官である河合隼雄先生の高弟である。ところが、多忙極まりないにもかかわらず、夜な夜なカルチャー・センターに通って増永静人師の経絡指圧を勉強中という変り種なのである。 “気”に着目した心身関係の議論にご期待いただきたい。

5:ヒロ歯科院長 高澤博幸先生 
「口腔からのメッセージ」

 新城先生のご推挙、ヒロ歯科院長の高澤博幸先生は、異色の歯科医師である。全身の一部分としての口腔という観点から、歯科領域の質的転換を図るべく臨床に携わっておられる。簡単に言えば、歯の疾患は全身に悪影響を及ぼし、歯の治療は全身に好影響を与えるということである。医学と歯学の境界線はなんら意味を持たないというわけだ。反対に言えば、全身の歪みは歯に悪影響を及ぼし、歪みの改善は歯にも好影響を与えるということでもある。微妙な歪みの改善は、西洋医学よりも東洋医学、とりわけ鍼灸の中に優れた技法が存在するというわけだ。口腔から身体へのメッセージに耳を傾けてみよう。

《多賀大社フォーラム事前説明会 詳細》
★日時 :平成19年8月19日 13:00~14:45
★場所 :千代田区三崎町3-6-15 東京学院 4階教室 / 水道橋西口から徒歩1分
http://www.kaigishitsu.co.jp/access.htm

《申し込み方法》

こちら  までメールにてお申し込み下さい。

   予約確認のメールを返送させて頂きます。

★★★《鍼灸師のための身体作り》★★★
多賀大社フォーラム事前説明会の後に同じ教室で行います。今回は夏休み期間という事もあり、会場にも余裕がありますので初参加の方も受け入れます。今まで参加を逃していた方、この機会に是非お越し下さい。 

★日時 :8月19日、15:00~17:00
★参加費:3000円 ※当日受付にてお支払い下さい。
★お申し込みは《多賀大社フォーラム事前説明会》と同様のメールアドレスへどうぞ。

   FAXでもお受けします。03-6279-5102 六然社 担当山本

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2007年7月14日 (土)

多賀大社フォーラム07プログラム

 和方鍼灸友の会おなじみの恒例イベント「多賀大社フォーラム ’07」のプログラムが決まりました。
 

 挨拶文と共に、鴻仁先生より送られてきましたので、抜粋するのも憚られるので、早速全文掲載します。
 既に印刷は済み、封筒に入れられ、会員の皆様には発送寸前の状態ですが、皆様に送るものには幾つか誤植がございます(が、多分お気付きの方は少ないと思います。あら捜しをしない限り、大勢に影響はないと思いますので、探さないように!)。
 あ、今年の記念品はすごいですよ。沢庵禅師直筆の「賛」の入った「老子騎牛図」。現在黒忍者がスキャニングからポスターに仕上げる為に奮闘中です。前々回は多賀大社にもない、多賀法印の肖像画、昨年絵はがきにされた多賀大社由来の掛け軸といい、一体ニコイチ達ってどうやってこういうものを入手するんだか……。今年初めて多賀フォーに来られる方の為に『法印流』医書集成のバックナンバーもも用意されるようです(但し、第一回のナンバリング付きのものはもうありません)。
文面の最後は鴻仁先生ふざけてますが、先生が書いてこられた「そのまんま」ですので、念の為。

      -和方鍼灸友の会-
     多賀大社フォーラム ’07
       》 ご 案 内 《

会 期:平成19年9月1~2日(土~日)
会 場:多賀大社 参集殿
       〒522-0341 滋賀県犬上郡多賀町多賀
参集殿直通 ℡0749-48-1103  FAX0749-48-2029
http://www.tagataisya.or.jp

参加費:1・2日とも;28,000円

①受講料 ②1日:懇親会費 ③2日:昼食代 ④記念品代の総額です。

※ 宿泊は各個人でご予約下さい。(社)彦根観光協会;宿泊のご案内
 http://www.hikoneshi.com/syukuhaku_annai/index.html

    : 2日のみ;18,000円
① 受講料 ②2日:昼食代 ③記念品代の総額です。
入会金:10,000円(会員でない方は入会が必要です)

締 切:8月17日 郵便振替にてご入金下さい
記号番号:00130-5-351212 名義:和方鍼灸友の会
連絡先: 〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2‐14‐4 IKビル2F
         (有)六然社内 和方鍼灸友の会事務局 tel/fax 03-6279-5101
記念品:①『多賀法印流医書集成』第4集 A4コピー版
※第1・2・3集は実費(各5,000円)にて頒布いたします。
     ②沢庵禅師讃・老子騎牛図 ポスター 

主催:和方鍼灸友の会/後援:多賀大社・六然社・亜東書店

        

        多賀大社フォーラム ’07
         ― プログラム ―

【9月1日】…………………………………………………………
10:30 サプライズ企画 「来なきゃ損する本チャン前」
       演題・演者未定
12:00 受付
12:30 開会の辞            六然社主 寄金 丈嗣
13:00 招待講演1「陰陽五行のサイエンス」
       京都大学人文科学研究所教授 武田 時昌
14:15 休憩(本殿に移動)
14:30 「多賀法印」慰霊・「弥曽以知」入魂式 
15:00 休憩(参集殿に移動)
15:15 招待講演2「日本仏教史からみた禅宗と沢庵禅師」
       慶應義塾大学講師 正木  晃
16:30 基調講演1「医術・武術の“名人”論」
       六然社主 寄金 丈嗣
17:15 休憩
17:30 ショート・ディスカッション「“名人”について語る」
       司会:寄金 丈嗣
◎ 中国の名人について …… 新城 三六 × 井手紀公生
◎ 日本の名人について …… 大浦 慈観 × 長 野  仁
18:30 休憩(参集殿1階大広間に移動)
18:45 懇親会(参集殿1階大広間)

【9月2日】…………………………………………………………
ボーダレス・メディスン
~垣根を越えた臨床実践と研究体勢~
9:00 受付
9:30 基調講演2「沢庵禅師“鍼科三部書”」
和方鍼灸友の会主宰 長野  仁
10:15 基調講演3「口腔からのメッセージ」
ヒロ歯科院長 高澤 博幸
11:00 休憩
11:15 招待講演3「陰陽五行思想と中国伝統医学」 
駒澤大学名誉教授 中村 璋八
12:30 昼休憩
13:30 招待講演4「臨床心理学からみた増永静人の経絡指圧」
京都文教大学臨床心理センター所長 濱野 清志
14:45 休憩
15:00 メイン・ディスカッション 《合の手》 長野 仁 × 高澤 博幸
   「 気 心 仏 ~見えざる“何か”を追い求めて~」
《語り手》  武田 時昌 × 濱野 清志 × 正木  晃
16:30 閉会の辞                           長野  仁

 

      -和方鍼灸友の会-
     多賀大社フォーラム ’07

        ご あ い さ つ

 しばしば「どの研究会や勉強会に参加したら一番ためになりますか?」と聞かれる。いちおう「タメになる?ダメになる?どっち」と、おチャラけてみせる。そして、「とりあえず参加してからでないと良し悪しは分からないけどな~」とはぐらかすことにしているが、「何はともあれ自分の目で確かめてみよう!という行動力がない時点で終わってるんだけどな~」と、心でつぶやいている。急がば回れ、効率的で経済的な“ムシ”のいい方法など、鍼灸に限らずどこにもないのである。
 「多賀フォー」も残すところ2回となった。惰性的で無意味な継続を嫌って全5回と区切ってスタートしたのはいいが、いざ折り返し地点を過ぎてみると、今度は店じまいのために無理やり開催するような気分になってきてモチベーションが著しく低下し、今回は中止しようかとも考えたが、持ち前の“直前力”が発現してマンネリ化を防ぐ企画が陸続と湧きあがり、気を取り直してようやくご案内となった次第である。

◎鍼灸師は深海魚である
かつて挨拶文の中で、鍼灸師の理論と技術の成熟過程をガラパゴス現象になぞらえたことがある。中央集権的でない日本の鍼灸界において、たまたま受けた治療、たまたま読んだ本、たまたま入った学校、たまたま参加した勉強会……、偶然に偶然をかけあわせた理論と技術が、たまたま開業した土地がらに適応していると、10人に1人とも、100人に1人ともいわれる生存競争に生き残れるというわけである。
今回は、鍼灸師を深海魚に喩えて説明しようと思う。すなわち「鍼界吾」である。
日の光の届かぬ深海(鍼界)は、ダーク・サイドであり、アンダー・グラウンドである。まず、職業に鍼灸を選んだ時点で、日の目を見ることなど諦めねばならない。
そして、深くなればなるほど、餌に乏しく、圧力が高い。鍼界を支えているのは、国民の3パーセントに過ぎないし、医界における不遇さ加減は、国家資格随一であろう。
過酷な環境に適応するには、ガラパゴス現象のごとく、独自の進化を遂げねばならない。その結果、グロテスクとなり、珍種・新種の宝庫となる。私を含め、どこか変なヤツでなければ、生存競争を勝ち抜くことなど出来やしない。
かつて、間中喜雄博士は「奇人 変人 半狂人 大歓迎 ―但し一芸に秀でた者―」と看板に掲げていたそうだが、実は、前の三つではなく、但し書きだけが肝心なのだ。要するに、鍼灸をチョイスした時点で奇人・変人なのだから、そこから半分だけ真っ当に狂いなさい、ということである。
グロいだけの珍種・新種は、お荷物どころか迷惑千万である。我々の目指すところは、肝も身も旨くて出汁もよい鮟鱇(アンコウ)であろう。すなわち、「案・効」、「安・乞」である。独自に考案した理論と即効かつ持続する技術を備えた鍼灸師。安心して治療を乞われ患者さんに慕われる鍼灸師。
アンコウの代表格・新城三六先生は、多賀フォーを契機に実践塾を開催されているし、私は井村宏次先生との邂逅から理論面・技術面とも再構築中なので、実技公開は行わず、黒忍者こと寄金丈嗣先生を軸に、“名人”について討議することとした。これは、武勇伝や思い出話というよりも、アンコウの解体なのであり、シビアな話が飛び交うこと必至だろう。

◎日本仏教
 5回連続参加をお願いしている正木晃先生には、覚鑁上人に引き続き、沢庵禅師についてご講演いただくこととした。覚鑁も沢庵も、日本の医学思想に少なからぬ影響を及ぼした高僧である。今回は、日本仏教史において禅宗はどのような位置づけにあるのかご説明していただいてから、江戸期の代表的な禅僧である沢庵その人にスポット・ライトを当てていただけるようご依頼している。
もう少し言ってしまうと、最終回は、邪教と蔑視される立川流の真言密教に関してお願いする予定である。結論まで言ってしまうと、全5回の講演を「鍼灸師のための宗教学講座」のような、1冊の本にまとめたいと考えている。チベット密教から立川流へ(総論)、覚鑁・沢庵から岡田茂吉へ(各論)という流れのある、鍼灸師向けの著述は皆無であるし、多賀フォーの記念碑にもなると思われるからである。
また、沢庵には鍼灸に関する著述も存在するので、その点については私が紹介する。本当は、数年前に『沢庵禅師鍼科三部書』として出版されていたはずなのであるが、不徳の致すところである。もちろん今回もさわりだけである。

◎中国哲学
 何といっても、今回の目玉は陰陽五行研究の世界的権威であられる中村璋八先生のご講演である。伝統に立脚する鍼灸師であれば、陰陽五行説を抜きにして理論も実践もありえないのだが、では、陰陽五行説がいかに形成されて、医学に吸収されていったのか、ということになると、ほとんど無知といってよい。現代医学が数学・物理学・生物学・化学・工学などに支えられているように、中国の伝統医学は中国古代の自然哲学を踏まえているのである。限られた時間ではあるが、壮大な中国哲学史の一端をご披露していただく。
中村先生と共に『易のニューサイエンス』を翻訳された武田時昌先生は、京大人文研・中国科学史班(藪内清スクール)の直系であるが、何を隠そう、私をダーク・サイドの深遠へと陥れた1人である。武田先生とは一面識もなかったが、大学4年の夏休み、遠い伝手を使ってようやくアポを取り、赴任先の信州大学を訪問したのが初対面である。ふと気がつけば、あの時の先生よりも年長の私がここにいて、深海魚生活17年目を実感しつつ、今度は私が学生会員を地獄へ引きずり込む番だと自覚するのであった。でも、どうせなら張本人に引導を渡してもらうほうがよかろう。演題は、目下の研究テーマである「陰陽五行のサイエンス」とさせていただいたが、果たしてどこで脱線し、どこに不時着するやら、終わってみなければ誰にも分からない。恐らく本人にも。阪神という名の「神」に祈るばかりである。

◎臨床心理学
 ひょんなことから面識を得た濱野清志先生は、ユング派心理療法の立役者であり前文化庁長官である河合隼雄先生の高弟である。現在、京都文教大学の臨床心理センター所長としてクライアントのカウンセリングに臨み、教授として学生に教鞭を執っておられる。ところが、多忙極まりないにもかかわらず、夜な夜なカルチャー・センターに通って増永静人師の経絡指圧を勉強中という変り種なのである。多賀フォー向きの逸材と出会ってしまったからには、一席設けるのが礼儀というもの。“気”に着目した心身関係の議論にご期待いただきたい。なお、この講演は増永師の隠れた名著『臨床心理学序説』の復刊準備も兼ねている。

◎矯正歯科学
 新城先生のご推挙により、急遽ご講演をお引き受けいただいたヒロ歯科院長の高澤博幸先生は、異色の歯科医師である。全身の一部分としての口腔という観点から、歯科領域の質的転換を図るべく臨床に携わっておられる。簡単に言えば、歯の疾患は全身に悪影響を及ぼし、歯の治療は全身に好影響を与えるということである。医学と歯学の境界線はなんら意味を持たないというわけだ。反対に言えば、全身の歪みは歯に悪影響を及ぼし、歪みの改善は歯にも好影響を与えるということでもある。微妙な歪みの改善は、西洋医学よりも東洋医学、とりわけ鍼灸の中に優れた技法が存在するというわけだ。新城先生との接点はここにある。境界なき医療を主張される高澤先生に、口腔からのメッセージを届けていただこう。

◎ボーダレス・メディスン
 第2回・第3回と中断していたディスカッションだが、波長のあいそうな先生が揃ったので再開することとした。武田先生は“気”、濱野先生は“心”、正木先生は“仏”、それぞれの先生が「目に見えない“何か”を追い求めて」いらっしゃるのだから、それをそのままテーマに掲げ、鍼灸と各分野の関連を深めるような、鍼灸の外堀を埋めるような議論を展開していただこうと考えている。マイク・ハナサーズの面々ゆえ収拾がつくのかどうか不安もよぎるが、参加者各位は時間の許す限りご堪能いただければ幸甚である。

◎嬉しくない値上げのお知らせ
 たった150名ほどの参加者のために、これだけのラインナップである。さらに、演者・演題は未定だが、特に学生会員をターゲットとしたサプライズ企画を初日の午前中に用意している。しかも、またまた冊子とポスターのダブル記念品である。これはどう考えても、参加費据え置きは不可能である。
ラストは、アンジェラ風で。いっこうに仕上がらない私の著作を当て込んでいる六然社の自腹も、そろそろ限界。ということで、嬉しくない値上げを敢行することになりまぴた。くれぐれもご理解の上、奮ってご参加下さいますよう、心よりお願い申し上げまぷ。

2007年7月吉日    和方鍼灸友の会主宰 長 野  仁 謹識

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2007年7月 6日 (金)

多賀フォーを100倍楽しむ方法

 まだ本決まりじゃありません。が、本屋さんから「多賀フォーの前に、説明会しようかな」と独り言のような呟きがありました。

 何の説明会かと申しますと、もちろん行き方ではありません(笑)。今回お呼びする講演者の先生方の立派な功績というか、どうしてこの先生方をお呼びしたのか、といったその分野の第一人者ぶりの仕事内容をご説明くださるというのです。パチパチ。

 教養まるで無しのワタシとしては大変ありがたいことでありまして、「これはワタシ以外にも同じように聞きたい人がいるに違いないっ」といつもの如くセンサーが立ったので、早速会場を押さえました(笑)。多賀フォーに参加された方はお分かりかと思いますが、始まってしまうとあっという間。事前に予習をして予備知識を入れておかないとハイレベル過ぎて、頭の上を単語が通過していく・・・という事が多々あります(ワタシだけかも)。それで、家に帰ってから資料をよーく読んでみるとか、関連書籍を当たってみるなどをして、「あぁ、そのことだったのか」となる事が多い。こういう勉強の仕方もあるわけですが、どうせなら事前に予習をしたいものです。

 8月19日(日)、1時~3時を予定しています。場所は水道橋から徒歩1分。今年お呼びする先生方のラインナップも鴻仁先生から正式に出ていませんからね(決定した模様)、詳細は追ってブログに書きます。

 せっかく多忙な本屋さんの日程を押さえたので、身体作りの練習もその日におねがいしようと思います。説明会が終わってから5時まで、同じ会場です。夏合宿に参加できずに涙を飲んだ方、ご連絡下さいませ。※最初から解説する時間が取れないため、従来の参加者を優先しています。

★★★なお、六然社の本は、 こちらの書店ウェブサイトや こちらのウェブサイトから購入出来ます★★★

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治療家の手の作り方

神道の呼吸法

ハイブリッド難経

超鍼灸法

東洋虹彩診断 『診断革命』

新日本鍼灸楽会草紙

大師流小児鍼

日本腹診の源流

皆伝/入江流鍼術

六然選書① 尾張藩医浅井家伝 金匱口訣

古伝大東流闡明

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2007年7月 4日 (水)

本屋さんの教授法

 本屋さんが、あるスペシャルな人に散鍼の手ほどきをしはじめました。
「指サックをするような鍼灸が流行る世の中になってほしくない」と思っている本屋さんは、「真っ当な散鍼が出来る人は絶対指サックはしないだろうから」という理由で、本気の人には本気で教えるみたいです。

 そのレッスンに同席させてもらいました。実は、その日のレッスンの前に、一通りのレクチャーはもう済んでいたので、散鍼の出来具合は別として、手のエクササイズはワタシだって一応知っているので、多忙な本屋さんに代わって(その日は日曜日の朝でした)、手の動きの復習ぐらいならワタシが・・・と立候補してみた所、

 「貴方は何にも分かってない」と・・・。
 突然の奇襲に些かワタシがムッとしていると、本屋さん曰く、「じゃあ、会って最初に何するの?」
 元気よく、「一緒に一からやってみましょう!」とワタシ。

 「・・・」しばし沈黙する本屋さん。…………、(あ、怒った…)

 結局、「まあ、今日僕が帰りにバイクで事故って死んだりしたら貴方に行ってもらう事になるから言っておくけど」と、いつもどこかで「死」を念頭においている本屋さんはしゃべり始めました。

 「あのね、まず相手の頭の中と身体に何が残っているのかを確認する作業が必要なんです。そしてその時にそのひとの思考パターンとか気にするポイントとか陥りやすい部分とかが分かるから、それぞれの部分に楔を打つように固定するものは固定、固定しちゃいけないものは動かし続けながら、ある時は隙間を埋めるように、またある時は一度解体するようにして、もちろんちゃんと組み直して、そうして全体のレベルをあげていくんですよ」

 会って、「せーの」で一緒に稽古をやるんじゃ、相手の頭にある回路を見る前に全てを台無しにしてしまうと言うのが分かってなかったんですね。気付かされると、これってすごく危険技。本屋さん曰く、前回の稽古で相手の回路に何が残っているかを見極めて、抜け落ちたものをできるだけ思い出させるように仕向けるのがまず第一歩。「記憶する事が大事なんじゃなくて思い出す事が大事なんだ」とのことでした。

 その上で、どうしてこの動きが必要か、どこがポイントになるかといったことを上塗りして行って、頭に回路を作ってあげると、それが動作として可能になってくる、と。

 う~ん。奥深いっ!!
 ここまで相手のことを考えてモノを教えてくれるのかぁ。きっとワタシもそういう恩恵に与っているんだろうけど、その読まれ方は全然分かっていなかったのであります。

 普段から本屋さんは机の周りは散らかっているとか(頭の中が整理されてればいいんだとか言い訳してました)、あんまり細かい事は気にされないんですが、「アナタは2穴パンチの穴の位置が毎回正確に同じ位置に開けてない!」と、ワタシに文句を言うのが不思議だったので聞いてみた事がありました。そうしたら、「目分量で正確な位置が毎回分かるようにする能力が患者さんの身体の歪みを見て取る能力を磨くのと一緒だから」と言われてしまいました。「○○と××も結局一緒でしょ」というのは本屋さんがよく言う言葉です。「えーっ、そんなんありかあ!」と思う事もありますが、確かにうなずける事や目からうろこの事も少なくありません。

 ということで、代理人としては役不足、単なる見学者として、頭の回路の作ってあげ方を見に行って参りました。

 そういう目で本屋さんの教え方を見ていると「なるほど~、にくいねぇ」という手順を踏んでいきます。人に伝えるやり方ってこういう事なんだな、というのがちょっと見えた気がします。

 今回のスペシャルな方への教え方は久々に見る最高級バージョンでしたね(笑)。あれで、相当回路が出来たのでは、と思います。以前、本屋さんが散鍼を教えている学生さんに「バッタモノになるのが嫌だったら、ちょっとでいいからマンツーマンでやる時間を持った方がいい。居酒屋で10分程隣に座るだけでも違うから」と言っていた意味が分かったような気がしました。確かに、個人レッスンは違いますね。

 ああ、でもこれもスペシャル様が繋がったネットワーク筋(元をただせばレベル3)だから実現されたんだと思います。ついでに、なんで、ああいう教え方が出来るのか聞いてみると、「自分の師匠がそうだから」という答えでした。

 本来、このようなやり方が本屋さんのオーソドックスな教え方です。
ワタシがお願いしているような多人数相手の勉強会ではなかなかこうはいかないので、あの勉強会はある意味では機能しない部分があるのは承知なのですが(「多人数だと、結局下にレベルを合わせなきゃなんないでしょ」とも言われました)……。ただ、大勢で一緒にやっていても、そこから人間関係を構築していって自分なりに抜きん出てくる人もいるわけですから、無駄ではないと思って乗り気で無い本屋さんにムリヤリお願いし続けているわけです。

 幾多の人が「教えて下さい」攻撃を本屋さんに仕掛けていますが、今回のように全面協力パターン2割、玉砕パターン7割ですね。残り一割はボーダー(笑)。ある意味両極端。大体ファーストコンタクトで判断されてしまいます。本屋さんはリターンマッチは受けますが、リベンジしてくる人はさらに少ない(笑)。残念ながら、どちらかというと、「どうして僕が自分の時間を割いてまで付き合ってあげなきゃいけないの?」と思わせちゃうのに成功する運びが多いのです。でも本当は休日返上して全面協力というのが本屋さんの教え方ですから、何かハードルになっているものを超えればその閾値には入れるわけです。ワタシが観察している内では、その方の情熱というか本気度と同時にどれだけ社会を見ているかをも推し量っている気がしますです。口ではやる気ありと言っても、実はやるべきことやってないのが分かるとか、(ちゃんと理解してればいいんですけど)勝手にアレンジして適当に他所で教えちゃってるとか、社会的な常識が普通にないとか、自分の利益しか考えてないとか、目が厳しいんですよ(笑)。

 と言いつつ、自分も内心ヒヤヒヤいつもしております。

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